ここ数ヶ月で、フトアゴヒゲトカゲの皮膚病であるイエローファンガス平の症例が3件こられたので、それに対する治療の効果と診断方法をここで紹介していきたいと思います。
爬虫類の教科書では
【この真菌(Nannizziopsis)は二次的な日和見感染(免疫低下時の感染)ではなく、原発性の感染を引き起こす病原体である。トカゲに問題になることが多く、その他、カメレオンやボールパイソンなどの蛇でも確認されることがある。肌の色が変化し、皮膚が壊死していくのが一般的に認められる症状であり、かさぶたやフケが黄色くなる傾向にある(必ずではない)。侵襲性が強いため進行すると全身に広がっていき感染が骨まで浸透していくこともある。致死的場合もある。】
と記載されているが、画像所見や真菌の所見の写真などはなく文章のみでの説明となる。
自分自身情報として知っていましたが、その病気に出会うこと自体は初めてでした。
まずこちらの写真をご覧ください。
こちらはコムギちゃんです。シルクバックという個体で、生まれつき鱗がないみたいです。僕も初めて見た種類です。
右足が浮腫んでおり、腫れています。
当初シルクバックという個体の特殊性からくる皮膚の細菌感染症と思い治療していきました。
抗生剤の内服と外用薬の塗布から行っていきましたが、改善がなく悪化傾向となりました。
なので皮膚の顕微鏡検査を行うことにしました。
写真がこちらです。
自分の予想では細菌が多数認められるはずでしたが、検査結果としては細菌も見られたのですが、酵母菌のようなサイズの丸い菌がたくさん見つかりました。
枝上に分岐しているものもあります。
形状から真菌と予想しました。
なので抗真菌薬を追加して行きながら、真菌同定検査を試みていきました。
真菌培養同定検査はすぐに結果が出ないのがもどかしいところです。
その間もコムギちゃんの皮膚は悪化していくと共に、同居のきなこちゃんの腹部にも皮膚病と思われる症状が出てきました。
きなこちゃんの腹部にも同種の菌体が確認できたことから、感染性のものと判断することができました。
病原体の侵襲が非常に早く、治療する側としては対応が難しい病態です。
痂皮の下側に菌体が多く検出されることも含め、治療の強化として、痂皮の徹底的な除去と消毒、抗真菌薬と抗生剤の塗布をおこなっていきました。
しかし、この時点でシルクバックのコムギちゃんは残念ながら死亡してしまいました。
なので残るきなこちゃんを助けることに全力を尽くすこととなりました。
自身も症例の経験がなかったので、一度他の爬虫類を診療している先生にセカンドオピニオンをお願いしました。
その先生も治療としては内服と外用薬の塗布がメインになるのと、病変の除去が治療になるとのことでした。また、長期的な治療を視野に入れる必要があるとの助言も頂きました。
また、この段階で真菌培養同定の結果が出てNannizziopsis類の検出がされたので、イエローファンガス病としての裏付けとしては十分となりました。
なので細かく来ていただきながら病変部分の除去をおこなっていきました。
手の部分にも症状が広がってきました。
本人の食欲元気はあり。
内服薬;イトラコナゾール10mg/kg ・アモキシシリン25mg/kg・モサプリドを1回/日で処方
外用薬;ケトコナゾール患部塗布1回/日
消毒;バイオウィル1回/日
1回/週 病院にて痂皮やカサブタ、壊死部の除去
治療2ヶ月にて病変部分の見た目上の完治と至りました。
再発防止のため、相談し内服薬は後2ヶ月は継続していくこととなりました。
治療が良い方向に向いて本当に良かったです。
今回コムギちゃんを助けることができなかった要因として、
①初期皮膚病の時点での検査を怠ったこと。
②シルクバックという特殊な皮膚により、イエローファンガスを示唆する皮膚の黄色変化などが出てこなかったこと。
③壊死が足の部分で出た時は、まだ腹部などに症状が出ていなかったので、その時点での積極的な断脚をすべきだった。
などが挙げられます。
①〜③に関しても、行っていたから必ず助けれたのか?と言われると頷き難いところですが、この治療経験を踏まえ、
同じペットショップから、同様の真菌感染が顕微鏡にて確認できた子はすぐに、壊死していた尾を断尾し現在治療しているところです。
このように無くなった子も病気を確定させることで、他の子の命を繋いでいけるのであれば、矛盾ですが少し救われるような気がします。
また、このブログで他の先生方の治療に少しでも手助けになればと思います。
(フトアゴヒゲトカゲの感染症は他にもデルマトフィルスなど様々あるので鑑別が必要です。写真と同じように見えたからと言って違う病気もあることがありますので、注意してください)